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 飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい。

 え?何をだって?そんなコト聞かないでくれよー。オチャケですよー、オチャケ。

 もう一ヶ月以上飲んでないよー。

 ああぁ、飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい飲みたい……。

 ほら、こうやってな、グググーっと……。

 教授回診でぼくの主治医ノーゲ(脳外科)のアライ先生が来たので、勇気をふり絞って聞いてみたんだ。だって、前に抜糸したらOK!って言ってくれてたからな。それにね、真知子が自分で聞けっていうし…。

 「先生!お酒のんでもいですか?」「うーん、まだダメです」「えっ?ウソツキーーーーー!!!抜糸したらイイって言ったじゃない……」(ショボン…)

 もう、こうなったらグレてやる。

(ボクの「ウソツキ」発言は、ほかの先生や看護婦ちゃんやインターンの人なんかにオオウケだった。でもウケるために言ったんじゃないんだけどな。)

日記 2000年 10月 3日(火)を開く

 真面目にリハビリをしているおかげで、病院の廊下をスタスタっと…ほらこの通り。どんなもんだい!もう大丈夫。それにしても不思議なモンだなぁ人間のからだなんて。ついこの間までね、トイレに行くのにも誰かの手につかまって歩いていたんだぞ。リハビリのソネ先生は、特別なコトをやっているようには見えないんだな。けれども毎日毎日少しずつでも続けていったら、いつの間にかまっすぐに歩けるようになったっていう訳だ。この年になっても何か新しい発見があるってコトは、嬉しいもんだな。自分の足で歩くっていうふつうのコトがこんなに嬉しいなんて…。なんだか今日は、真面目な気持ちになってしまったけれども、こういう日もあるのだ。

日記 2000年 10月 5日(木)を開く

 (今日は、頭の良い人と4時間位しゃべったので疲れたらしく、日記をさぼって、お見舞いの品を抱きながら寝てしまったので、赤塚真知子が代筆しました。)

 今日来てくれたお見舞いのお客さんが、かなり嬉しかったらしい。
それはどうやら、こんなに長く入院してるのにだーれも持ってきてくれなかった“ウイチュキー”を持ってきてくれたからみたい。

 持ってきてくれたのは、フジオプロの顧問弁護士の先生。
 そしてさらに、ノシガミには「お見舞い」って書いてあった(?)ので「ボクのこと良く分かってるなー」って、ニコニコのフジオちゃん。

 外科の先生が回診に来たので、嬉しくて、取られない様に「ほらー」と見せていた。

 ついでに、弁護士先生はこんなアドバイスもしてくれた。

「アルコールのリハビリもされたらどうですか?」
「どうするの?」
「食事の時に、奈良漬け、あさりの酒蒸し、上海蟹の老酒漬け、ムール貝のワイン煮、エトセトラーエトセトラ、デザートにサラバン、ワインゼリー、ようするに料理にお酒を入れちゃえばいいんですよ。美味しくなるし…」

 さすが東大出の弁護士!とひたすら感心するフジオ。

「ナカクボ先生ありがとう。それにしても、お医者さんと弁護士、どっちの方が頭いいのかなー。」

…なんちゃって、とっても幸せそうな今日のフジオちゃんでした。

日記 2000年 10月 6日(金)を開く

 だんだん元気になってきたら、病院生活も飽きてきたのだ。8月末から入院しているので、かれこれ1ヶ月以上。だんだん入院代も心配になってきたぞ。

 そういえば、入院してからすっかりタバコとも縁が切れていたことを急に思い出した。別に禁煙と言われていた訳ではないんだけれども、自然に禁煙していたんだな。一度思い出すと、いてもたってもいられなくなって真知子にお願いしてみた。口で言うのが恥ずかしいのでさりげなくメモで書いておいた。

 ボクは、元気なときには1日で60本以上吸っていたヘビースモーカー。傑作マンガの数々も、ケムリとともに生まれたのだ。

 真知子が置いていってくれたタバコ、さすがに病室では禁煙なので喫煙コーナーへいってさっそくプカリ。

 久しぶりの一服はさぞ美味かったろうって?それが、ちぃーとも美味くなかったのだ。ニガイ!もしかして、舌がどんどん「こども」になっているのかな?酒も飲んでいないし、最近やけに甘いものがうまい。ムムム…これはしかし、マズイぞ…。

日記 2000年 10月 10日(火)を開く

 1ヶ月ちょいぶりで外出許可が出たのだ。嬉しくて、どこへ行こうかとあれこれ考えたんだけれども、やっぱり懐かしの(?)わが家へ帰ることにした。

 久しぶりに戻ったらビックリ。ボクが留守にしている間に、事務所と仕事場にしている1階と自宅の2階を改装していたんだ。どこもかしこもピッカピカで、ボクの家じゃないみたいにみちがえちゃったよ。

 実は、いままであった仕事場の本箱、ロッカー、机、等なんかは、ほとんどがこの「フジオプロ」を建てた時そろえたもの。う~んとかれこれ22・3年は前の物ばっかりだな。この机でいろんなキャラクターやギャグなんかを描いてきたんだと思うと感慨深いけど、やっぱり新しいものは気持ちがイイのだ。しかし、20年以上使っていたとは物持ちがいいってのかケチなのか…。

 自宅にしている2階では、壁紙がきれいになってスッキリ物が整理整頓されていた。家を間違えたかと思ったよー、ホントに。

 僕が退院してくるときにサッパリするように…って壁に飾ってあった写真なんかを片付けたら、その部分だけ壁紙がマッシロ。タバコのヤニで壁がモノクロというか茶色と白のギンガムチェックになっていたんだって。そこで、入院代の出たとこついでってことで壁紙を張り替えたらしい。

 ウチは来る客、来る客みーんなヘビースモーカーだからしょうがないな。

「これからタバコ吸う人から1本10円取って、次はそれで貯まったお金で張り替えようかな」となんて真知子は言ってたけれど、ボクは真知子が一番払うんじゃないのかと思うんだけれど…。

 夕方からは、ボクの大好物カニを食べに行った。真知子が友だち数人に声をかけて、総勢8人でカニ三昧となった。カニ屋の階段はちょっと急で恐かったけど、これもリハビリ。あれ?食前酒がいつもは出るのに、今日は出ない、おかしいなー?どうやら、真知子が先に手を回して断ったらしい。楽しみにしていたのにな…。

「ボクチャン、毛がにのおミソ食べなさい」と真知子。甲羅のおミソは食べた後で日本酒入れて飲むのが楽しみで食べるんだ。だから「そんなものいるかー」と言ってやった。

 ボクに付き合って、一緒に行った全員が酒ナシでカニを食べることになった。それにしても、お酒の飲めないカニ料理って、ホントに味気ないもんだな。あ~あ…。

 (この写真は友だちのひとり、ミズモトくんが撮ってくれたんだ。)

日記 2000年 10月 15日(日)を開く

 オッス!フジオの気まぐれ日記ご愛読のみなさま、げんきか~!ボクはゴキゲンだぞぅ。なんかヘンだなー…とお気付きの方はスルドイ!実はお医者さまにはナイショで、今日から自主的に(勝手に)お酒を解禁にしたのだー!わっはははっ!(いいのかなぁ…)

 ボクの若い頃からのお友だち(クミちゃん)がお見舞いに来てくれたので、病院の1階のレストランでカンパーイ!2ヶ月ぶりのお酒、ホントは水割りがいいんだけれども、真知子がにらんでいるので、ワインにしてみた。これは、ウ・ウマイ!!!ウマイのだ!

 いままでのリハビリの苦労がふっとんじゃうような、ウマサなのだ。これからも、リハビリを一生懸命ヤルことを誓って、もう一杯。

 あー生きててよかった。

が、ワイン2杯でイイ気持ちになってしまった。さすがのボクも2ヶ月のプランクは大きいのだ。あとは、明日の楽しみに取っておこう。今日はひさしぶりにホロ酔いでバタンキュー。

日記 2000年 10月 22日(日)を開く

 今日は、外出許可をもらって家でテレビの取材を受けた。フジTVのスーパーニュース。ボクの作った点字のギャグ絵本「よーいどん!」の取材だったんだけれども、ものすごく上手くいって真知子にほめられちゃった。
 そして、取材のご褒美ってことで、またまた大好きなカニを食べにいくことにしたんだ。このまえ食べにいったときには、お酒ナシの味気ないカニだったけれども、今度はちょーっぴりウイスキーを飲みながら…。タイミング良く、松尾貴史(キッチュ)さんから電話があって、いっしょに行くことになった。松尾さんは「カニ男」っていわれる程カニ好きなんだって。ひさしぶりに会うので嬉しいな。ボクと松尾さんはそんなに古いお付き合いじゃないし、年も離れているけれど、なんとなく気が合うんだなー。
 楽しい友だちとのくだらない会話、カニ、そしてお酒。こんなカンジがボクの大好きな時間なんですねー。うーん極楽じゃ。
 うすーい水割り2杯にカニミソ、焼きガニ、カニフライ、カニスキ…とカニ責めのあとにデザートのゴマアイスまで食べて、ボクはもう満腹&大満足。
 病院に帰らなくちゃいけないから、飲み過ぎは厳禁!これでいいのだ!

日記 2000年 10月 28日(土)を開く