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「いたいけ」ってナニ?

 「いたいけ」っていう言葉知ってるか?辞書で引いてみると… 幼くていじらしいさま。だって。こんな言葉、フツウはあんまり耳にしないよな。ところがここ赤塚家では、この言葉がひんぱんに使われるんだ。例えばこんな風に…
 「ヤダ~また、いたいけフェロモン出してるよ~」「そんないたいけな顔してもダメなものはダメ!」「いたいけフェロモンバンバン出てるね~」…こうやって考えてみると真知子がオレに言っている…ってことはオレって真知子に「幼くていじらしいと思われてるってコトか?」よ~し!作戦成功だ。というよりも永年身についた習性か?
 …話はさかのぼること57.8年、オレの生い立ちに触れなくてはこのコト説明できない。
 1935年満州で生まれたオレ、玉のようにかわいいフジオちゃんも終戦とともにかあちゃんに連れられて日本に戻ってくることになった。まさに命からがら。(とうちゃんはシベリアに連れていかれた)そして、そこからオレことフジオ少年の自らの命を守るための涙ぐましい努力が始まったのだ。
 そのころの日本といえば、まさに戦後の混乱期、喰うや喰わずの中、満州からの引揚者への差別も厳しく身を寄せたかあちゃんの郷里も例外ではなかったんだ。10歳のオレは幼いながらも考えたね~。「どうすれば、食い物にこまらずに生きていけるんだろう」と。幸いにオレは、自分で言うのもナンだけどかなり可愛い男の子だった 。それを利用しない手はないぞ。オレはとにかくいつも愛想よくしていることにした 。そして、年上の人に可愛がられるように、気をきかせてチョコマカとよく動いたんだな。この作戦はみごと成功した。親戚のおばちゃんたちや近所の人までみんな「フ ジオ、フジオ」とオレのことを可愛がってくれたし、もちろんかあちゃんにとっても オレは特別だった。オレが一生懸命やればやるほど、いたいけフェロモンってやつが出るらしく、このことを“引揚者シンドローム”なんてオレの周りでは言われている んだ。
 …こういう風にいうと、なんだか悲しい習性みたいだけれども、今ではすっかり人格の一部になっていて、自分でも無意識にいたいけフェロモンっていうヤツを出しているらしい。どういう時にかっていうと、そりゃ、決まってるよこんな時。
 「真知子~オレ、カワイイでしょ?(ニコニコニコニコ!!)…一杯ちょ~だい 」ってな感じ。さらに最近のオレの名セリフを紹介しよう。「オレはお前のペットな の」って真知子に言ったんだけれど、こう言っておけばアイツはますますオレのことを可愛がってくれるだろうっていういたいけフェロモンの処世術、進化と訓練も必要です。
 ちなみに、このフェロモンは、男の人は比較的効きにくいみたいだけれども、一度はまった男は女の人よりもキョーレツに作用して、オレから離れられなくなるみたい。これホント。さらに、死んじゃった愛猫菊千代もしっかりとオレの血を引き継いでいたことを報告しておきます。

いたいけなフジオパート1。実は免許証の証明写真かなんかに使ったヤツです。こんな顔で「ね~。」と言うと真知子はイチコロです。

パート2は、ひざを抱えた少年。あるいは捨てられた小犬?

「ケーキはね、こうやって大きなお口を開けて食べるのっ!」…子どもみたいだって?そう思ったら、それがいたいけフェロモンにヤラレ始めている証拠。

アメリカ人諷刺漫画家のボプ・クラークも、ボクのいたいけにメロメロ。いたいけフェロモンは、性別も国境さえも越えて有効です。

最後に菊千代とオレのダブルフェロモンを喰らいたまえ!

厨房に入るべし

 ここ数日、お酒を飲み過ぎることもなく、なんとなくいい体調で過ごしている。 こうなると本来の食いしん坊魂が蘇ってあれこれ食べたくなってくるんだ。
 オレはなぜか、酔っぱらっているときには食べ物が一切必要なくなって、ひどいときには栄養失調と診断されたほど!簡単に言うと、食べるのが面倒になっちゃうんだな。けれども今は違うぞ~。
 改めて考えてみると、オレは昔から冬の食べ物が大好き。例えば、フグ(これは文句なく美味い!けれど文句なく高い!)カニ、ウドン、スイトン、そうだな~鍋物はなんでも好き。あとは、中華料理かな。そのなかでもナマコだのフカヒレだのちょっ と変わったものが好みです。
 …こういうと、オレがいつも外食ばかりしているみたいに思うかもしれないけれ ど、いやちょっと待て。きょうのオレは、若いヤツらに一言あるぞ。
 たまに外食してみることは悪くない。けれども、いつでも外食をしている人って いうのは本来の人間の「食べる」っていう楽しみを知らない人たちじゃないかと思う んだ。あと、インスタントやレトルト食品ばかり食べている人、コンビニの弁当なん か喰ってるヤツも同じ。腹が減ったからと無意識に食べていたり、気がついたらなんとなく食べていたってのもダメ。「ついで」に食べるってのもいただけない。「食」 を楽しむっていうのはただ空腹を満たすってことではなくて、人間だけに与えられた高等なモノなんだ。けれども、だからと言って高いものを食べなさいってことじゃあないよ。
 なにを食べるかを決めて、自分で材料を仕入れて(買い物に行く)、自分で料理を してみなさいってコト。オレは自慢じゃぁないけれど、なんでも作るぞ。簡単なものばかりだけれど、スパゲティだってスイトンだって、スープだって、オレのギョーザは美味くて有名!初めて料理をするひとは下手でもいい、自分で作ってみるってのが大事なんだよ。
オレは昔、トキワ荘で漫画の修行をしていた時には毎日、毎日キャベツいためを作っていたよ。お金がなくて外食なんてできなかったっていうのと、その頃キャベツが一番安くて量がいっぱいあったっていう単純な理由から決めた献立だったけどな。(だからコレがオレの青春の味!)あとは、味噌汁やジャガイモのスープなんかも良く作ったよ~。そういえば、今は亡き石ノ森章太郎のごはん係をしていたこともあっ たんだ。オレって器用だからな。石森のヤツ、いつもうまい!って食べてくれたよ。
 要するに料理っていうのはクリエイティブなんです。予算、季節、体調、気分… とすべての要素を考え合わせて本日の料理を考えましょう。そして作ったら、食べる時には楽しい会話、コイツもお忘れなく!では健闘を祈る!!

これはちょっと昔の写真。雑誌の取材でスイトンを作った。本当はシンプルな料理なのに、昔のカタキをとるようについつい具がたくさん入った「贅沢すいとん」になっちまうのがタマにキズ。

いつものようにワルノリして「キッチンアカツカ」の白衣まで作ってしまいました。なんでも形から入るのが大好き。

人が作ってくれたものを食するときにはこのくらいのサービス精神が大切です。
もちろん「ウマイ!!」と一言そえて食べましょう!

今晩のアカツカ家はオレが仕切ることにしました。が、ちょっと手抜きをして真知子におつかいをお願いしました。

フジオのレシピ 簡単でウマイよ!

肉の天ぷら
ブタ肉のうす切り、これをシオコショー、酒で一晩つける。
味がしみたところで片 栗粉をまぶして天ぷらにする。
揚がったところで蒼のりをかけて、できあがり。

ジャガイモのスープ
ジャガイモを1センチぐらいの厚さに切る。
まずフライパンにバターをひき、ジャガ イモを炒める。
そしてだんだん水を足していく。
スープ状になったら、シオコショー で味付け。これだけ。

ビーフシチュー
牛肉をシオコショー、赤ワインで一日つける。
セロリ、タマネギをいっしょにバタ ーでキツネ色になるまで炒める。
ナベに肉を入れて材料と赤ワイン、トマトピューレと煮る。味をみながら。肉が柔らかくなったら、肉を取り出してスープをこす。
こしたスープにシオコショーなどで味つけ。
肉の上にスープをかける。

「縁」はイなもの!?

 数日前からオチャケ抜きの為に入院している。
 オレが時々、体調を整えるために某大学病院に入院しているのはご存知のとおりだけど、特にどこも悪くないからとにかくヒマ!そしてオチャケを抜くと何故だか果物やお菓子なんかが無性に食べたくなってくる。ってわけで病院のそばをうろうろ歩いて、やっと見つけたみのやさん。これがもう3年くらい前のことなんだけどな。
 病院のまわりは住宅街じゃないから、店なんてほとんどないんだけれど、そんなところでボロっちくも頑張っているのがこの店で、とにかくナンでも売っているんだ 。アイスクリームからお菓子からパン、果物、野菜、おべんとうからおでんまで。見つけた時はうれしくってドッサリ買い物をしすぎたから持ちきれなくなって、病室まで配達をお願いしちゃった程。
 去年、急性硬膜下血腫でICUに入った時なんて(もちろんICUには冷蔵庫なんてナイわけで)わがままなオレのリクエストに応えるために、真知子はみのやさんの冷蔵庫をお借りして買った果物を入れさせもらっていたんだ。そして真知子は、毎日冷蔵庫に通うハメになった。おかげで1週間のあいだ毎日ICUに大好きな果物を運んでも らうことが出来たって寸法だ。
 なんでオレたちとみのやさんがこんなに仲良くなったかっていうと、このおとうさんとおかあさんがと~ってもイイ人!二人ともおしゃべりで、気さくで、ホントに下町の温厚なイイフーフなんだ。さらに、いつでも煮物や炊き込みごはんなんかをくれるんだよ。これがまたウマイ!ただし、コレもアレも「美味しいよ!」っと勧め上手に乗せられて、ついつい買い過ぎちゃうのが玉にキズだけれど。
 そして、最後に面白い「縁」をバラしましょうか。
 オレが初めてこの店に行った時、おかあさんが「赤塚不二夫さんですか?」って聞くもんで「ハイ!」って答えたら、「いつも息子がお世話になってます」だって!!「え?知らないよ~。あなたの息子って?」と聞くと「野々村真です!」だって。
 それなら知ってるよ!「世界ふしぎ発見」でぜんぜん答えられないヤツだろ~。 オレアイツのファンなんだよ。だってカワイイじゃない。上品だし。それにしても、 ビックリしたな~。
 「でもねおかあさん、オレ真くんに会ったことないよ」っていうと、息子はタモ リさんの番組(笑っていいとも!ですね)でデビューして、タモリさんにはとってもお世話になっている。そしてタモリさんがお世話になった人であるオレには、やっぱりお世話になっているコトになる、って言うんだよ~。
そうなのかな~って思ったけど、つくづく人の「縁」って不思議だな。それから 、世間って意外と狭いね。ってのが、きょうの結論でした。

ほら、新鮮な果物がいっぱい。ついつい買い過ぎです。

たくさんの食べ物に囲まれて満足なボクちゃんです。頭につけたリボンは、きのうもらったバレンタインのチヨコレートに付いていたもの。

いただきものの炊き込みごはん。もちろん美味です。これを持ってこれからご夫婦でお孫さんの顔を見に行くんだって。

真くんのご両親。よく見るとおふたりのあちこちに真くんの面影が…。

こんなことやらされたっ!

 先週の飲み過ぎ入院から無事生還すると、さっそく仕事を入れられていた!退院 してやっとゆっくり飲めると思っていたのに。さてその仕事はなにかと言うと…
 今、オレはオレの全漫画が収録されているデーブィデー(編集部注: DVDのコトです)ってのを作っている。昔オレの担当だった小学館のバカ岡こと赤岡くんと、あの有名な武居記者といっしょにね。…といっても、オレはなにをする訳でもなく「フ ーン、みんな頑張れよ」って見ていただけだけどな。けれども、ここへ来てそのデーブィデーに出演しろっていわれてビックリ!
 出演ってなんだよ!漫画のデーブィデーじゃないの?というと、DVDビデオをオマケに付けるんだって。オレがオマケだって?面白いじゃない?!
 そこでオレは張り切ったね。先週の入院のおかげで体調は充分だし、久しぶりの撮影だもん。パパの扮装をしてくれって?お安いご用だよ!!
 ってんで、きょうは真知子と張り切って麹町スタジオへ。
 スタッフがずらり~っと7.8人はいたかな?もちろん赤岡くんと武居記者の顔も見える。かなり緊張した雰囲気の中、オレがスタスタ入っていくと、すかさずメイクさ んが「先生メイクお願いします」。「ハイよ!」と薄くドーランを塗ってもらう。ブルーバックで撮影してモニターをチェック、その場で合成画面を確認しながら撮影していく方式らしい。だけれども、オレにはその合成画面が見えないモンだからなにやってんのかサッパリわからないんだ。どうやら東京タワーをよじ登ったり、トイレに閉じ込められたり、あげくはトイレに流されたり…したらしいんだけど。ヤレ右を向け!だの、舌を出せ!だの、笑え!だの、今度は困った顔!だの、言われるままにやっている方はかなりバカっぽい。
 途中でスタジオの近くの文藝春秋の松井さんが遊びに来てくれた。彼はオレが昔 、文春の「ギャグゲリラ」をやっていた時の担当だ。
 最後にパパの扮装。パパの顔はプロのメイクさんでもちょっと難しい。漫画を描く要領でオレが仕上げる。まゆ頭をグイっと描くのがコツなんだけれど、コイツはオレしかできないな。
 パパになったら、さっそくウィスキーを飲むシーン。オッ!ラッキー。燃料が入ってさらにさらにエンジン快調になったよー。「一杯飲むか?」なんてセリフも決まったね。途中でライトがあんまり熱いので、鼻の下に描いたヒゲが汗で溶けてチャップリンのチョビヒゲみたいになっちゃった!
 結局、2時間15分をノンストップで一気に片付けた。
 あ~疲れた、と言ったら松井さんが文藝春秋社のリッパなロビーでコーヒーを奢ってくれた。きょうは早く帰ってゴロンとしたいな。こういうのをココチヨイツカレっていうんだな~。

「なにやってんの?」って聞かないでください。オレの方が聞きたいよ~。

これもおんなじ。言っておくけどオレ、やらされているんだからねっ。

合成するとこんな感じになるらしい。今、初めて見たよ~。

パパのアップ!ニコニコ…!!

パパはちょっとばかり疲れたよ~。しっかし、オレもよくやるよな~!こう見えても、もう今年で67だよ!!