ボクが離婚してから真知子といっしょになるまでのしばらくの間、花の独身生活を
楽しんでいた頃、ボクは菊千代との男ふたり暮らしだったんだ。ボクはご存知の通り 、マンガ以外の生活は全くの不精で、この頃は特に仕事をしているか、酒を飲んでる
か、女性を口説いているか…ほとんど、それしかしていないっていうメチャクチャな 暮らしだったんだ。そんなぼくに菊千代はピッタリの同居人だったって訳だ。
ボクと菊千代の関係はペットと飼い主っていうよりも、独立した同居人同志という
かんじの、ひとりと一匹だったんだな。
当時ボクは、仕事が終わるとほとんど家にいなくて、毎晩毎晩飽きもせずに編集者 や飲み友だちと遊び歩いていたんだな。朝方ようやく帰ってくると、菊千代は気づい
ているのに(猫なのに…)タヌキ寝入りしているんだ。「菊千代、帰ったぞ」なんて 言っても、軽く爪先でコンコンとつついてみても、全く無視しているんだな。自分を
置いてきぼりにして、遊んでばかりいるオレへの無言の抗議ってわけだ。ボクがいな い時には、こんな風にちらかったボクの単行本を枕にうたた寝もしていたらしい。全
く憎めないヤツだよ、コイツは。
ウチへボクの飲み友だちが大勢やってきて、宴会になることもしばしばあったけれ
ど、まずは菊ちゃんにごあいさつしてから家に上がるんだな。そして菊千代はしばら くは様子を見ているんだけれども、慣れてくるとこの通り。テーブルの上に乗っかっ
て、おつまみの袋に顔つっこんじゃって…。怒る人はだれもいないから仕方ないなー 。酔っぱらいたちは、みんな菊千代が大好きだった。
けれどもなぜだか例外もあるんだ。それは、ボクが女性を家に連れて帰ってきたと きのこと。(もちろん独身時代のハナシです)菊千代は、その女性の顔を見るなり「
ゲー」って音をたてて…吐いた。そんなことそれまでに一度だってなかったのに…。 当然その女性は「なによこの猫、失礼ね」なんて言って帰っちゃった。今考えても、
なぜ突然「ゲー」ってやったのか全然わかんない。…実は、これで帰ってしまった人 が、いままでに二人だけいます。
「ニャンニャン、だれだか分かるニャ?」なんてことをして遊んでも、菊千代はち
っとも怒らないのだ。これもほんとに電話をしていて「ちょっと菊と代わるな」とい って受話器を渡したんだ。なんだかホントに話しているみたいだなー。
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